イギリスのジャーナリスト、ティム・マーシャル氏が書いた地政学の本です。
第一次大戦のきっかけとなったサラエヴォ事件をはじめ、ユーゴスラビア紛争など、バルカン半島が紛争を抱えやすいのは、地政学的な要因が多い*1ということをどこかで読んで以来、地政学に興味があったので購入しました。
著者はイギリスのジャーナリストということで、近しい人と直接話したエピソードなども出てきてその点でも楽しめます。
長い歴史の中で隣国同士のインドと中国が、1962年の小さな武力衝突を除いて、主だった戦争をしてこなかったのは何故か?*2
ナポレオンもヒトラーも敗れたロシアの圧倒的な防衛力の所以であるとか、
アメリカが超大国足り得る所以など、アジアアフリカヨーロッパ中東など、地域別に章立てて、主だった国々を中心的に地政学的性質が解説が成され、さらには今後のエネルギー問題を見据えた極海にまで話が及びます。
世界史というととかく欧米史の色が濃くなってしまいますが、他の地域のことにも興味が持てます。
フランスとスペインを隔てるピレネー山脈であるとか、千葉の県境が川だったりとか、カエサルのガリア戦記にも出てくるような、ローマ帝国の時代はライン川がゲルマン民族を阻む防衛線であったように、現在の国境国土などの境界は多くが地政学的要因によって形成されています。
そもそも四大文明がいずれも川の近くに発していることも、穀物が育てやすく人口増が望めるからです。
そのような歴史や民族分布を無視し、地図上に直線を引いただけで領土を決められた植民地に、1つの民族に1つの国家という、20世紀にヨーロッパで生まれた国民国家の概念が流れ込んだことで、独立戦争や内戦紛争の坩堝となった話などは読んでいて胸が悪くなります。
北朝鮮と韓国を二分する38度線も、地政学に則って決められた訳ではないため、地形的に進軍を阻む障害に乏しく、朝鮮戦争を誘発するに充分だったとか、
山が多く本土上陸が難しい日本の地形が、アメリカに本土上陸戦ではなく、原爆投下を決意させる要因ともなっただろうという解説には、なるほどと思いました。
メルカトル図法では同じように見えても、アフリカがグリーンランドの14倍あるなど、読んでいて地球儀が欲しくなる本でした。