ワンダーウーマン見てきました。前作のバットマンVSスーパーマンが個人的にイマイチだったこと、乃木坂起用の宣伝が炎上気味だったりで不穏な感じだったことから、見に行くかどうか迷ってたんですが、やー、とても面白かったです。満足。
マーベル作品でソーとキャップが好きな方には特にオススメできるかなと思います。それでいて女性主人公なので新鮮さもありました。そして、何より相手役のスティーブの人柄が良すぎました!
以下、長々と感想。
マーベルはアイアンマンから始まるアベンジャーズ関連のMCUは全部見てます。
一方、DC系はダークナイト三部作とマン・オブ・スティール、旧スーパーマンとリターンズも押さえて、賛否ある「マン・オブ・スティール」は大好きでブルーレイも買いました。
滅びゆく星を守ることを遺伝子に刻み込まれたヴィランのゾッド将軍が悲劇的で好きです。
前作の「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」はワンダーウーマンは最高だったもののバッスパがイマイチで、スーサイド・スクアッドも観てないです。
第一次世界大戦の話ということと、相手役がクリス・パインだったので観に行きました。
ハリウッド俳優から好きな顔9人選ぶ記事で、惜しくも次点だったクリス・パイン。好きな顔です。スタートレックで好きになりました。
あらすじ
外界から隔てられた女だけの楽園セミッシラ、アマゾン族の姫ダイアナが主人公。幼い頃から戦士に憧れていたダイアナは訓練を望みますが 、母で女王のヒッポリタは反対します。
しかし、叔母のアンティオペ将軍は、かつて世界を争いで荒廃させた軍神アレスがいずれ復活する、ダイアナを鍛えておくべきと主張。女王は誰よりも厳しく育てることを条件に渋々ダイアナが戦いを学ぶことを認めます。
島一番の戦士に育ったダイアナは、ある日、訓練の中で人並ならざる力を発揮し、叔母を傷つけてしまったことを戸惑います。
そんな中、島を守る結界を突き抜けてきたドイツ軍の飛行機が海へ墜落。飛行機とともに沈みかけたパイロット、スティーブを泳いで救い出し……
美女に救われて「ワオ」って言いたい衝動
スティーブが目覚めた時、ダイアナをみて、目を見張り思わずこぼれる「ワオ」がすごくいいです。一生に一度は経験してみたい……あ、飛行機と溺れるのは絶対に嫌です。
飛行機に続いてドイツの軍艦も島に侵入。スティーブは自分はいい奴だが奴らは悪人だとダイアナに伝えます。
余所者の侵入に気づいたアマゾネスの戦士たちは銃に弓矢で対抗。上陸してくるドイツ軍と浜辺での苛烈な攻防戦。序盤の見せ場です。
アマゾネスの戦いのなんと美しいことか。アベンジャーズだとホークアイの弓とかキャップの盾とかシンプルなものが好きなのですけど、ドストライク!
製作のザック・スナイダーの「300」が男の戦いを極めた一つの形としたら、女の戦いを極めたのがこのワンダーウーマンじゃないかなと思います。
あまりにも筋肉が完璧すぎてCGを疑われたハリウッド版北斗の拳。戦いと筋肉以外は何も頭に残らない怪作。一応、史実なのに敵役の描写がアレすぎてイランから怒られた。
犠牲を払いながらも、ドイツ軍の猛攻をしのぎ切ったものの、将軍アンティオペが銃弾に斃れ悲しみが島を包みます。
アンティオペを撃ったドイツ兵を倒したこと、ダイアナの発言から敵ではないらしいと命は助かったスティーブですが、ドイツ軍服を着ている点を怪しまれ、嘘がつけなくなるヘスティアの縄で尋問にかけられます。
強靭な精神力で抵抗し、中々口を割らなかったスティーブですが、アメリカ軍の大尉で英国軍に協力してドイツ軍に潜入していたスパイであること、ドイツが開発していた毒ガス兵器の研究資料を持ち出し追われていたことを明かします。
世界大戦の話を聞き、昔話で聞いた軍神アレスの仕業だと確信したダイアナはアレスを倒せば平和になると、スティーブと島を出ることを決めます。
母に黙って島を離れようとしたところを見つかってしまいます。ここの母との別れがまた泣けますね。あなたはいつでも最愛の娘だった。今は最大の悲しみに……というヒッポリタのセリフが泣けます。
船の中でのスティーブとダイアナのやりとりもにやにや。ダイアナから距離をとって眠ろうとする紳士なスティーブに対して、「女とは寝ないの?」とダイアナの爆弾発言。
「女とは寝るよ、寝るけど結婚した女性じゃない」とあたふたするスティーブの真面目な価値観が現れます。20世紀初頭のアメリカでならさほど珍しくはない価値観でしょうか?
結局、ダイアナの隣で眠ることになるスティーブ。絶世の美女の隣とか眠れたもんじゃないですよね……。
ちなみに男のことは知らないダイアナですが、そういった行為や生殖についてはなんちゃら快楽論全12巻を読んで知っているそうです。「生殖には男が必要だけど快楽に男は必要ない」とのダイアナの弁を必死に否定するスティーブがこれまたおかしい。
アマゾネス、ロンドンに立つ
さて、英国軍の上層部に毒ガス兵器計画を知らせ、武器研究所の破壊を促すべくロンドンに上陸した2人。アマゾネスの常識はロンドンの非常識。スパイのスティーブとしては目立たずに行動したいところなのですが、ダイアナの美貌はいやでも目立ってしまいます。
少しでも目立たない格好をさせるためブティックに連れて行きますが、ダイアナの美貌は何を着ても少しも衰えず。女性用の軍服すら美しく着こなしてしまいます。スティーブは眼鏡をかけさせますが、「眼鏡をかけても美人ですよ」と。
そんな知的美女な外見で剣と盾もつダイアナが最高にクールでこまったさん。かわいい。(;´д`)
途中、ドイツのスパイに囲まれたりもしますが、そこは銃弾すら弾き飛ばすダイアナのスーパーパワーで一網打尽。「君に任せるよ」と引き際わきまえてるスティーブと満足げなダイアナが良いコンビです。
第一次大戦期の女性のありかた
イギリスの議会にノートを届けたものの、ドイツとは休戦交渉が進行中でことを荒立てたくないと英国上層部は動きません。女性であるダイアナが場にいることをいぶかる反応の数々。
まだまだ女性に発言権がない時代ですからね。この頃の女性権利と大戦による男手の不足が女性の社会進出を推し進めた事情については、パンフレットにも記載があります、
旧映像の世紀に女性参政権を訴えるため、ダービーレースに飛び込んで自殺する女性活動家の映像が出てきますが、それが1913年の出来事でこの映画の舞台は1918年ですから、そうは変わりませんよね。
第一次大戦による男性不足が女性の社会進出を促したエピソードが他にも出てきますので、そのあたりに興味ある方は見てみてください(ロシアにいたってはいち早く女性兵士まで誕生してます)。
安全な場所から兵士の命を犠牲にしようとする英国上層部に、ダイアナは私の島では将軍は兵士とともに先頭で戦うと非難してその場を去ります。直前の叔母アンティオペの死に様との落差に憤りは大きいでしょう。
これまた映像の世紀からで恐縮ですが、ウィンストン・チャーチルが第一次大戦を回顧した文章が思い出されます。
「戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。 アレキサンダー や、シーザー や、ナポレオン が兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。 そんなことはもう、なくなった。
これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。 一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。 これから先に起こる戦争は、女性や、子供や、一般市民全体を殺すことになるだろう。
はー、何度読んでもぞっとするくらいの名文です。さすがノーベル文学賞作家でもあらせられるチャーチル様。
初めは英上層部の判断に従おうとしていたスティーブも、ダイアナに触発されて敵地に乗り込み、行動を起こすことを決めます。
疑うダイアナを前に、ヘスティアの縄を自ら巻きつけて、その言葉が真実であることを証明するスティーブが実にかっこいいです。
議会でのいざこざに「若き日の自分を見るようだ」と好感を持ったパトリック卿から、非公式ながら金銭的支援も受けて、協力者を集めます。
交渉術に長け数カ国語を自在に操るサミー、狙撃手のチャーリー、ネイティヴ・アメリカンの酋長らと共に西部戦線へ。
慎重に行動しようとするスティーブに対して、近くの村から逃げ出してきた子連れ女性の姿を見過ごせないダイアナ。大義を前には救えない命もあると諭すスティーブですが、ダイアナは止まりません。
西部戦線を剣と盾で突っ切るアマゾネス
近くの村を救うべく、銃弾飛び交う最前線に飛び出していくダイアナ。
第一次大戦の劇的な戦闘がなくとも、平坦な日常の中で淡々と機械的に人が死んでいく虚しさとやりきれなさ、栄誉なき戦争に惹かれる人間としては、一連のシーンは個人的にはちょっと「ナシ」なんですが、まあ戦争映画ではなくスーパーヒーロー映画なので……ダイアナの人間離れした能力を見せる狙いもあることでしょうし。
一方、映画序盤のアマゾネスの戦い方を覚えていたスティーブがダイアナをアシストするシーンはベタながらグッときます。
かくして、ベルギーの小村を救うことに成功し、村人から歓迎を受けるダイアナ一行。写真を撮って記念になると喜ぶおじいさん。
夜、抑圧から解放され歌い踊る村人たちに混ざり、スティーブとダイアナも踊ります。見つめ合い惹かれ合う2人はその後、結ばれます。
ターミネーターのサラとカイルが頭をよぎり、私はこの時点で「もしかして……」とスティーブのその後を予感してしまいました。
ダイアナの辞書に「待て」の文字はない
ドイツ軍上層部が集まる社交パーティー、アレス=ルーデンドルフを倒せばいいと楽観的なダイアナですが、ことは簡単ではないとわかっているスティーブはそれを諌め待つように伝えます。
ドイツ将校に成りすましてパーティーに潜入、毒ガス開発者である女性科学者マル博士に「研究成果を見せて欲しいんだ」と近づくスティーブ。
博士のファンなんですとのアプローチにマル博士も満更でもない様子。自分の色男っぷりを完全に自覚したスティーブの振る舞い、憎らしいくらいかっこいいです。スタートレックのキャプテンといいクリス・パインはこういうの似合いますね。
まんまと作戦成功かと思わせたところで、ドレスを着てパーティに潜り込んだダイアナが、ルーデンドルフとダンスを踊っている現場に出くわし、唖然呆然スティーブは目を奪われます。そりゃ見ますよ。
うっかりダイアナに気を取られたことで、「貴方の目的は私じゃない」とマル博士に見破られてしまいます。完全にデート中に他の女見てた彼氏を怒るソレです。
その場でルーデンドルフを倒そうとするダイアナと、今殺したら収集がつかないと止めるスティーブが悶着している間に、実用化された毒ガス爆弾が村に投下されます。
投下を知って村に駆けつけたダイアナですが、ガスマスクすら意味をなさないほど強力な毒ガス。当然、村人は誰1人助かりませんでした。ダンスを踊っていた夫婦も、記念写真を撮ってくれたおじいさんも……。
失意の中、村を後にしたダイアナは、あの時、ルーデンドルフを倒していれば救うことができたのにとスティーブを責めますが、ルーデンドルフの居場所を突き止めたという合図の狼煙を見て現場に向かいます。
ロンドンへの毒ガス爆弾投下の準備が進む滑走路で、二度と犠牲は出すまいとするダイアナは迷いなくルーデンドルフを倒します。
バリバリの史実無視ですけど、ルーデンドルフの遺族の方とか、どう思ってるんでしょうか。
これでアレスに操られていた人間は元に戻り、戦いは終わるはずと辺りを見渡すダイアナですが、ドイツ兵は爆弾を運び込んでいて、戦争が止まる様子はありません。
アレスを倒しても戦争は終わらない。全ての人間が善良なわけじゃないとスティーブ。
それまでダイアナに頼ることはしてこなかったスティーブは、ロンドンへの爆弾投下を止めるため、はじめてダイアナに協力を求めます。
「人間は救うに値しない」と絶望したダイアナは断り、スティーブは他の3人と爆撃機を止めにいきます。
軍神と女神
すっかり意気消沈したダイアナの前に姿を表したのはなんとパトリック卿。ルーデンドルフはしがない中ボスにすぎず、パトリック卿こそがアレスだったのです。
これは驚きました。だってパトリック卿、顔が完全に英国紳士のおじいちゃんなんですもん。軍神アレスと全然結びつかない外見なんですもん。
今度こそアレスを倒せば全てが終わると、神殺しの剣を振りかざすダイアナですがあっさり折れてしまいます。ゴッドキラーが折れたとショックを受けますが、アレスはダイアナこそがゴッドキラーだと言います。
神は神にしか殺せないので、ゼウスと女王がアレスを殺すべく設けたのがダイアナであると、ダイアナの人外じみた力の所以が明かされたところで、アレスはダイアナを自身の仲間に引き入れようとします。
ゼウスが作った人間を邪悪な存在と思っていたアレスは、邪悪さを証明するために人間に知恵を与えましたが、アレスはそそのかしただけで、実際に戦をすると決めたのは人間たちだと言います。なんか聖書でいう蛇というかサタン的な役割ですね。
一方、爆撃機を止めるべく行動していたスティーブですが、爆撃機を攻撃すれば飛散した毒ガスで地上の人間が犠牲になってしまいます。
アレスとの戦いで近くに飛ばされてきたダイアナに別れを告げ、飛び立とうとする爆撃機を追いかけ乗り込んでいきます。
爆撃機を乗っ取ることに成功し、毒ガス弾に向けて銃を向けるスティーブ。運命を共にすることを選んだのでした。銃を構えて実際に撃つまでのスティーブの逡巡が切ない。
上空の爆発を目にしてスティーブの運命を知ったダイアナは怒りに我を忘れます。破壊衝動のままに暴れ狂うダイアナの姿に、自分と近しいものを感じてアレスは喜びます。
毒ガス開発者であるマル博士を指して、人間の業と醜さを主張するアレス。マル博士の仮面が剥がれ醜く爛れた顔が露わになる演出は、人間の醜さの演出としてベタながら効果的。マル博士を殺すようにそそのかすアレスに対して、ダイアナの心を過るのは、「人間として責任を果たす」と走り去って行った別れ際のスティーブの姿でした。
近くで神対神という荒唐無稽な戦闘が繰り広げられる中で、こう言えるスティーブの人間性が本当にすばらしいです。
スティーブが別れ際に渡した遺品の腕時計と「愛してる」の言葉を思い起こし、微笑んだダイアナは愛こそが人間を救うという信念に目覚め、兄であるアレスを倒すのでした。
ダイアナが初めて会った男がスティーブ・トレバーじゃなかったら、9割9分9厘世界は滅びていたことでしょう。
スティーブの魅力について、言葉で表すのは非常に難しいのですが、ダイアナの話を信じるかどうかはともかくとして、それが正しい前提で話をする姿勢というのがとても好きですね。信念が大事だと言っている通り、人の信念も尊重できる人なんだなぁと思います。
人としての責任を果たすという本人の弁の通り、ダイアナという存在の助けはあったにしても、人の力で人の世界を救ったという構図が良かったです。ベルギーの村も結局は助からなかったわけですし。
その点、作中世界で第二次大戦の英雄であるキャプテン・アメリカとは一線を画するところです。
アベンジャーズのソー対ロキとか、地球人視点で見ると「兄弟喧嘩はアズガルドでやれ(やってる)」感が多少ありますから。
かくして、ドイツの新兵器計画は阻止されロンドンに凱旋したダイアナたち。戦勝セレモニーで飾られた写真の中にスティーブの姿を見つけたダイアナは微笑むのでした。
バットマンこと、ブルース・ウェインが探し出してくれたベルギーの村で撮って貰った写真を眺め、もう一度彼に会えたとお礼のメールを送るダイアナが女神。まあ女神ですけど。
今作の奔放なダイアナを見ていると、「バットマンvsスーパーマン」でのワンダーウーマンに至るまでの100年に想いを馳せてしまいます。
「バットマンvsスーパーマン」二度は見ないなと思ってたのに、もう一回見たくなっているので偉大。
スティーブとダイアナに絞って書いてますけど、役者だけど肌の色で主役になれないサミーが皆それぞれ戦ってるんだとダイアナを諭すところとか、いいシーンはもっとあります。
舞台が戦争→登場人物が男性に偏る、スーパーヒーローが女性であることから、ジェンダー対立的構図に見えかねないんですが、悪の科学者が女性が配されていたり、その点にも気が使われているなぁと感じました。
今作のおかげで俄然、ジャスティスリーグが楽しみになって来ました。